「ストレス脳」という本のおもしろさ

ストレス脳」という本のタイトルを見た時、また何でも名詞化して煽っている内容なのかなと思っていました。ところが、立ち読みしてサラッと見ただけでもそういう本でないことが分かり、2、3ページ読んですぐにkindleで購入しました。

不安というものは一体何のためにあるのか、心理学や気持ちについて興味がある方には特にお勧めです。生物学的なアプローチが書かれており、こういう見方もあるんだな、と心が落ち着くことも多いと思います。

アンデシュ・ハンセン  (著)

なるほどな、ということが次々と考察されていて、あっという間に読めてしまいます。感想としては、興味深く読んでみて良かったと思える本でした。

作者

スマホ脳」という本を書いた著者と同じアンデシュ・ハンセン  で、その本はオリコン年間book1位を獲得しているので、目にしている人も多いと思います。「ストレス脳」は、2022/7/19にでた著者の最新作です。

著者は精神科医で、この本は医学部生だった頃に人間の脳を自分の手で持った体験が発端となり、3年かけて執筆されています。

精神的に元気でいるために何をすればいいかに焦点が当てられています。

自分を見る目が変わり、自分を病気だと思わなくなる

9章からなる内容は、つぎからつぎへと生物学的な見方から「どのように不安がおこるのか」「一体なんのために不安が存在するのか」「不安になる自分にどう対処したらいいのか」を考察する形で、脳の中でどのようにうつや不安がつくられるのかが書かれています。

それを読んでいくうちに、不安になるのは当たり前、不安になったらこう考えればいいという風に思えてきます。

ただし、実際に何かしらの身体的な症状がでていたり、状態が悪いと思う場合は思い悩まずに、肺炎やアレルギーで病院に行くのと同様に受診することをすすめています。作者の出身地であるスウェーデンでは、抵抗なく精神科を受診したり、堂々と精神の不調について周囲にもオープンにできるといいます。

1人で悩まないことが大事ですね。もし相談できる相手がいない場合は、書くことでも癒されるので、吐き出すくせをつけるといいと思います(参考:ひとつずつ、ひとつずつ-書くことで人は癒される (フェニックスシリーズ)。基本的には、文章を書きたい人向けの本なのですが、ライティング講座の内容を通じて、書くことの素晴らしさが書かれています。)

精神状態が悪いなら受診すること。肺炎やアレルギーで病院に行くのと同じことだ。医学があなたを助けてくれるし、あなたは独りではない。

感情というのは実はただの「任務」にすぎない

感情というと、言い換えると気持ち、つまり自分の頭で考えて出てくるものではないと思っていましたが、著者によると、生き延びて遺伝子を残せるように、脳が私たちを行動させるものだといいます。

落ち込んで沈み、やる気がなくなるのも身体にとっては休ませたり防御したりする必要なことであると。むしろ必要なことで、正常なことだと知っていることが自分にとって楽になると書いてありました。

また、記憶は精神状態によって塗り替えられるので、精神状態が良ければ少しポジティブになり、悪ければ少しネガティブなものになるそうです。毎回wikipediaのように常にアップデートされていくものだから変化していくというのです。

特に記憶を取り出した際に変化するというから驚きです。辛い記憶も時間はかかるだろうけど、いずれ少しでも辛くない記憶に塗り替えられることができるからこそ、生きていけるということですね。

不安に驚くほど効果がある治療方法

それは、「運動」です。
人類が狩猟時代に進化してきた期間に比べて3分の1しか歩いていないそうだ。理由は本書に譲りますが、歩くだけでも頭が冴え渡り思考能力も高まるし、不安感も減り、炎症を抑制する効果もあると、いいことづくめのようです。

単純に、「そりゃ運動は健康にいいというよね」といった何となくの知識ではなく、免疫系、ウイルスによる感染症、不安などのストレスは密接に関わっていて、それらのメカニズムが書いてあるので、読んでいくうちにすんなり納得がいきました。しかも、激しい運動ではなく、歩くだけでも効果があり、歩数が重要だといいます。

運動することによってエネルギーが消費され、そのエネルギーの一部は免疫系から奪われてくるので免疫系の活動が抑えられる。それは良くないように思うかもしれないが、慢性的な炎症というのはたいてい免疫系が過剰に活動しているせいなのでそれで良い

ストレス脳

不安とはごく自然な人生の一部で、私たちが生き延びるための前提条件であることを。不安の一切ない人生を期待していたなら、がっかりするかもしれない。

ストレス脳

幸せの定義とは

幸せを追い求めるなという著者のメッセージ。
サバイバルを生き延びた人の祖先である私たちにとって、常に幸せという状態は生物学的には非現実的、だって生き延びるために進化してきたのだから。

幸せの状態が続けるという無理な目標は持たない方が、逆に安定した毎日を送れるようです。無理なものを求めようとするから、求めるような風潮、「幸せでないといけない」と思わされている現代に惑わされないように生きていくと、楽になれるよと作者は伝えているのです。